—食生活を中心とする環境の変化が大きな原因です—
日本人1人が1年間に消費するおもな食品について、農林水産省から統計が出されています。
戦後から昭和、平成にかけて最も消費が増加しているのが牛乳・乳製品です。
小麦も増加しています。
魚介類はえびなどを中心に増加、また肉類・油脂類も増加しています。
消費が多いということは生活環境にこれらの食材が多いということでもあります。
また加工食品やインスタント食品などに多くの食材が使用され、アレルゲン食物を口にする機会も多くなっています。
こうした日常食生活の変化が、最近の食物アレルギー増加に関係しているとされています。
—皮膚や気道からもアレルゲン食物が取り込まれます—
アレルギーの増加と関係のある環境の変化は、食生活に限りません。
自然志向からスキンケア外用剤の原料に小麦や植物性油脂(ピーナッツ、ナッツ類、ごま)、大豆や豆乳などのアレルゲン食物(アレルギーの原因になる食物)が利用される傾向にあります。
最新の研究で、皮膚や気道からもアレルゲン食物が取り込まれアレルギーが引き起こされることがわかってきました。
記憶に新しい事例として、洗顔石鹸に含まれていた加水分解コムギという小麦由来の成分が、経皮粘膜的に体内に取り込まれ、その後、小麦アレルギーを発症してしまう例が社会問題となりました。
このように環境中にアレルゲン食物が増えることで知らず知らずのうちに、アレルゲン感作が成立してしまっていることが多くあります。
とくに皮膚バリア機能が低下している乳児のアトピー性皮膚炎は注意が必要です。
—過度に衛生的な環境も一因に—
近年、お母さんたちの衛生に対する意識が高まっています。
ドラッグストアに陳列されている商品を見ても、除菌を謳っている商品が数多く並んでいます。
しかし、最近の研究で、過度に衛生的な環境はアレルギーに傾きやすい体を作っていることがわかっています。
たとえば、家畜のいる農家などで育てられた乳幼児はアレルギーが少ないとされています。また、兄弟姉妹が多い場合にもアレルギー児が少ないことがわかっています。
これらの事実は、過度に衛生的な環境よりも、適度な細菌刺激のある環境のほうが免疫力がつき、アレルギーになりにくいことを示しています。
私たちの体には、外界の病原体などから自らを守るための免疫機能が発達しています。とくに細菌の侵入に対する免疫は、適度な細菌刺激でその機能が維持されています。
ところが、抗生剤の多用やあまりに清潔な環境によって感染刺激に対する機能が必要とされなくなると、逆にアレルギーを引き起こしやすくなるのです。
このように、過度に衛生的な環境が食物アレルギーを引き起こすという仮説を「衛生仮説」といい、注目されています。
—腸内細菌の異常とアレルギーの関係—
それでは、食生活を中心とする環境の変化や現代の抗生剤の多用が、なぜアレルギーの増加につながるのでしょうか。最近の研究で、腸内細菌との関係が指摘されています。
腸内細菌は私たちの体に約100兆個も生息しており、腸内細菌叢(多種多様な腸内細菌の集まり)を作って消化管の環境をバランスよく保っています。
乳児期の腸内細菌は、出生後、急激に変化し、出生数日からビフィズス菌がもっとも多くなり、幼児期を通じて腸内の環境をよい状態に維持しています。
これに対し、乳児期にビフィズス菌が少ないとアレルギーを発症しやすいことが報告されています。また、アトピー性皮膚炎が重症であるほど、このビフィズス菌が少ない傾向があります。このようにビフィズス菌が少なくなってします原因として、食生活を中心とする環境の変化や現代の抗生剤の多用との関係が疑われているのです。
欧州では、善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌(プロバイオティクス)を摂取したり、あるいはビフィズス菌のエサとなるオリゴ糖(プレバイオテイクス)を摂取して腸内細菌を正常化させることで、アレルギーを予防したり、症状を軽減する試みも行われているところです。
—柴田瑠美子著 国立病院機構福岡病院の食物アレルギー教室 より抜粋—